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福岡家庭裁判所 昭和47年(少)880号 決定

【その1】

少年 Y・N(昭三三・五・一四生)

主文

少年を教護院に送致する。

少年を国立武蔵野学院に入所させたうえ、少年に対し昭和四七年四月二一日以降通算一八〇日を限度としてその行動の自由を制限する強制措置をとることができる。

理由

1  触法事実

少年は

(1)  Aと共謀のうえ、昭和四六年一〇月五日午後二時三〇分ころ、福岡市○○○○××○代○学○×年×組の教室内において、同中学校一年生○宮○○を呼出し、「お前はつやーにしとるね。小学校のときには俺をいじめたね。」などと言つて、少年においていきなり○宮の頭部を足蹴りにして転倒させ、その背中を少年とAとでこもごも踏みつけ、さらに頭を蹴るなどの暴行を加え、もつて○宮に対し治療五日間を要する右頭部、顔面打撲傷の傷害を与え

(2)  昭和四七年一月二九日午後四時過ぎごろ、同市○○○○○ゲームセンター付近便所において高校生○松○美と通称「だるま」こと中学生某とが喧嘩した際、同中学生の連れであるAが○松から殴られたものと感違いして憤激し○松の顔面を右平手で殴打して暴行を加え

(3)  B、C、D、E、F、Gと共謀のうえ、昭和四六年一〇月一二日午後三時四五分ころ、同中学校内において、同中学校二年生○井○人にささいなことでいいがかりをつけ、こもごも同人の顔面、胸部などを殴打したり足蹴りにし、もつて共同して暴行を加え

(4)  C、D、Hと共謀のうえ、昭和四六年一二月二八日午後五時ころ、同市○○×丁目○○○○○前バス停でバスを待つていた○取○学○二年生○野○明、同○井○雄の両名を「ついて来い。」などと言つて同所×丁目○○○○裏側○糧○ル前噴水場まで連行し、そのころ同所において、「金を出せ。」などと言いながらいきなり○野ら両名の顔を手挙で殴りつけて畏怖させて、よつて○野から同人所有の現金約八〇〇円の交付を受けて、これを喝取し

(5)  C、D、A、Eと共謀のうえ、同月二六日午後三時ころ、同市○○×丁目○○○○○○○便所内において、○椎○学○二年生○村○二に対し「金を出せ。」などと言つて、もしその要求に応じなければ危害を加えかねないような態度を示して同人を畏怖させ、よつて同人からその所有の現金二〇〇円の交付を受けて、これを喝取し

たものである。

なお、本件記録中少年に関する博多警察署長作成の昭和四六年六月一一日付児童通告書記載の触法事実については、これを認めるに足りるだけの証拠がなく、結局は証明がないことに帰する。

2  適条

上記1の(1)の事実について 刑法六〇条、二〇四条

同 1の(2)の事実について 刑法二〇八条

同 1の(3)の事実について 暴力行為等処罰に関する法律一条(刑法二〇八条)

同 1の(4)(5)の事実について 刑法六〇条、二四九条一項

3  処遇

(1)  少年の本件触法行為の内容および態様は上記のとおりであるところ、少年の学校においての行状についてみると、まず小学校のときのそれについては、少年はグループで行動する傾向がありボス的行為があつた旨報告されている。つぎに、昭和四六年四月福岡市立○代○学○入学後のそれについては、少年は学習意欲がなく、怠学としての欠席も相当数あるが、登校しても授業を受けようとせず(第一学年を通じ欠課一七八時間)、C、D、E、Aら同中学校の問題生徒のリーダー格となつて非行グループを形成し、卑猥な歌を大声で唱うなどして同グループで学校内を徘徊し、喫煙、ボンド遊びをするほか、同中学校の備品、施設などを毀損し、上級生を含む同中学校の他生徒に対し、威圧を加えあるいは暴力を振い、金品をたかり、さらには弁当などの所持品に放尿するなどし、同中学校長をはじめ教師の注意を聞き入れないばかりか、かえつて「どこに証拠があるか。」などと言つてくつてかかつたり実力でもつて反抗したりしていたもので、そのために同中学校の生徒全体が不安な状態に陥れられていた。そしてこのような少年の累非行の背後にあつてこれを支えあるいは助長したものとしては、少年が自己の一族およびCの実父らの居住地域にもつ隠然たる勢力に加えて、交遊関係を深めていた○鮮○高○学○その他近隣の中学校の素行不良生徒の威勢をも恃んでいたこと、被害を受けたものおよびその父兄が報復を怖れて泣き寝入りしていたこと、少年およびCらの父兄が機会あるごとに同中学校に対し批判的立場に立つてその教育指導方針を激しく非難し、結果的には少年に同中学校に対する根強い不信感を植えつけてしまつたことなどの諸事情がある。したがつて結局少年を同中学校を挙げての指導体制にも乗せることができず、同中学校長は、少年について昭和四七年三月六日福岡県中央児童相談所に対し、学校指導の限界を超えるものとして通告をした。

(2)  少年の家庭をみると実父母とも韓国籍で、実父は生前(昭和四六年五月三日病死)暴力金融業○山○を支配しかつボクシングジムを経営し、大小の組織暴力集団と交遊関係を保持していたが、現在はその実弟Y・Dがその代りをつとめている。実母はスナックレストランを経営しているが昭和四七年一月二九日より肝臓病のため入院している。同胞は姉三名と少年との四名である。少年の家庭は韓国の伝続的習慣である家父長・直系嫡男中心支配の家族形態をそのまま踏襲しているうえ、実父の生存中から暴力集団関係者の出入が多かつた。少年は、このような家庭において許家の直系嫡男かつ祭祀継承者としての地位を認められるとともに金銭的にも不自由なく育てられてきた。少年が、このような家庭で、独善的博徒的思考ならびに行動様式を学習し、次第に非行性を高めてきたことは明らかである。さらに少年の親族らは外罰的かつ防禦的態度を強く見せるのみで、すでに習癖化した少年の非行性を矯正するための監護指導を期待するだけの能力は有しない。

(3)  少年の性格についてみると、少年は、自省力、自己抑制力に乏しく、即行的、衝動的に行動し、不良顕示により安定を得ようとする傾向があり、また平然とした態度で嘘をいう。

(4)  ところで少年について福岡県中央児童相談所に対し、昭和四六年六月一一日博多警察署長からの通告があつて以来、同警察署長その他の警察署長からの通告が合計四回、上記のとおり○代○学○長からの通告が一回というように通告が相次いだ。そこで同児童相談所は、昭和四六年八月一〇日訓戒の措置をとつたが、少年の非行はおさまらず、結局、昭和四七年三月二二日保護者に対し、国立武蔵野学院(教護院)入所の措置についての同意を求めたが、同意は得られなかつた。

(5)  上記の諸事情を総合してみると、少年についてはもはや家庭保護、学校指導を継続することは著しく困難であつて、在宅(非専門的)保護の限界を超えており、少年の非行性を除去し、その社会適応性を養成し、また義務教育を終了させるためには少年を教護院に入所させたうえで、そのための指導、訓練を施す必要がある。そしてまた上記のような、少年の規範無視の態度、学校集団生活からの逸脱行動、問題グループへの親和性などを考慮すると少年の施設内での集団処遇には非常な障害を伴うことが予測されるので、少年を強制力が行使できかつそのための設備のある国立武蔵野学院に入所させたうえ、少年に対し本日以降通算一八〇日を限度として、その行動の自由を制限するような強制措置がとれるための許可をするのを相当と認める。

4  法令の適用

少年法二四条一項二号、一八条二項

よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 江口寛志)

【その2】

少年 N・O(昭三三・一一・一生)

主文

少年を教護院に送致する。

理由

少年を国立武蔵野学院に入所させたうえ、少年に対し昭和四七年四月二一日以降通算一八〇日を限度とし

て、その行動の自由を制限する強制措置をとることができる。

1 触法事実

少年は

Aと共謀のうえ

(1) 昭和四六年五月三日午後二時ころ、福岡市○○×丁目○吉○学○付近において、○崎○所有の自転車一台(時価二万円相当)を窃取し

(2) 同月一五日午後三時三〇分ころ、同市○○○×番××号○上○パ○トにおいて、○上○一管理の登山ナイフ二本、缶切付ナイフ二本、指輪二個、ペンダント一個(時価合計四、二〇〇円相当)を窃取し

(3) 同日午後三時ころ、同市○○○○××番×○号○多○丸○パ○トにおいて、○田○管理のペンダント三個(時価六、七四〇円相当)を窃取し

(4) 同月上旬の午後五時ころ、同所において、同人管理の花札一式(時価五〇〇円相当)を窃取し

(5) 同年四月中旬午後三時ころ、同所において、同人管理の婦人用くさりバンド二本(時価合計三、〇〇〇円相当)を窃取し

(6) 同時期の午後三時ころ、同所において、同人管理の充電式ミニカー一台(時価一、四〇〇円相当)を窃取し

(7) A、Bと共謀のうえ同月下旬午後二時ころ、上記○上○パ○トにおいて、○上○一管理のキーホールダー一個、ペンダント一個(時価合計一、〇〇〇円相当)を窃取し

(8) Aと共謀のうえ同時期の午後二時ころ、同所において、同人管理のペンダント一個、ボンボンガム二個、チョコレート二個、レモンドライ一個(時価合計八二〇円相当)を窃取し

(9) 同時期の午後、同所において、同人管理のミニカー一台(時価一八〇円相当)を窃取し

(10) Cと共謀のうえ、同月中旬の午後二時三〇分ころ、同所において、同人管理のパンチ一個、ミニカー一個、ダートゲームの刃四個、パズル一個(時価合計九〇〇円相当)を窃取し

(11) A、Bと共謀のうえ、同時期の午後一時ころ、同市港○丁目○の○○藤○務○ガレージ内において、○茂○所有の軽快用自転車一台(時価三万円相当)を窃取し

(12) C外五名と共謀のうえ、同年一〇月一二日、同市○○○○○代○学○内において、同中学校二年生○井○人に因縁をつけ、同人に対しこもごも手挙で殴つたり、足で踏んだり、蹴つたりするなどの暴行を加え

(13) Aと共謀のうえ、同年五月上旬の午後一〇時ころ、同市○○×丁目×○猷○高○自転車置場において、氏名不詳者所有の自転車一台(時価五、〇〇〇円相当)を窃取し

(14) E、F、Gと共謀のうえ、同年一二月二八日午後五時ころ、同市○○×丁目○○○○○○バス停でバスを待つていた○取○学○二年生○野○明、同○井○雄の両名を「ついて来い。」などと言つて同所×丁目○○○○裏側○糧○ル前噴水場まで連行し、そのころ同所において、「金を出せ。」などと言いながらいきなり○野ら両名の顔を手挙で殴りつけて畏怖させて、○野から同人所有の現金約八〇〇円の交付を受けてこれを喝取し

(15) E、F、Hと共謀のうえ、同月二六日午後三時ころ、同市○○×丁目○○○○○○○便所内において、○椎○学○二年生○村○二に対し、「金を出せ。」などと言つて、その要求に応じなければ危害を加えかねないような態度を示して同人を畏怖させて、同人からその所有の現金二〇〇円の交付を受けてこれを喝取し

(16) A、J、Kと共謀のうえ、昭和四七年一月一六日午後四時ころ、同市○○×丁目×番○○○○において、○珂○学○三年生○谷○郎、同○沢○介、同○田○弘の三名に対し、「金ばかさんや。」などと言つて、その要求に応じなければ危害を加えかねないような態度を示して上記三名を畏怖させて、○谷から同人所有の現金三〇〇円およびライター一個(時価一、七〇〇円相当)、○沢から同人所有の現金二〇〇円ならびにマフラー一枚(時価四八〇円相当)およびライター一個(時価一〇〇円相当)、○田から同人所有の現金一、三〇〇円および財布一個(時価五〇〇円相当)の交付を受けて、これらを喝取したものである。

なお、本件記録中少年に関する博多警察署長作成の昭和四六年六月一一日付児童通告書記載の触法事実については、これを認めるに足りるだけの証拠がなく、結局は証明がないことに帰する。

2 適条

1の(1)ないし(11)、(13)につき 刑法六〇条二三五条

1の(12)につき 暴力行為等処罰に関する法律一条(刑法二〇八条)

1の(14)ないし(16)につき 刑法六〇条二四九条一項

3 処遇

(1) 少年の本件非行(触法行為)の内容および態様は上記のとおりであるところ、ついで少年の学校における行状等についてみると、まず小学校のときのそれについては、少年は学習意欲がなく、したがつて学業を怠けることが多かつたうえ協調性を欠き、責任感がなく、暴力を振つたり、嫌がらせをしたりすることから他生徒にきらわれて孤立していた。つぎに、昭和四六年四月福岡市立○代○学○入学後のそれについては、少年は、やはり学習意欲を示さず、怠学による欠席、早退があつたうえ、遅刻についてはむしろ遅刻しないことがまれといつた有様で、授業中にも私語をしたり歌を唱うなどして授業の妨害をするほか、授業自体を怠けることが多かつた。そして、同中学校の問題生徒であるF、E、A、Hらと交遊関係を深めて非行グループを形成し、同グループで学校内を徘徊し、学校行事に参加せず職員室に侵入して喫煙をしたり、ボンド遊びをし、学校の備品類を毀損し、他生徒から金品をたかりあるいはこれに暴行を加えるなどその他の校則違反行為を累ねて、同中学校の他生徒らを不安に陥れていた。しかして、教師の注意に対しても、その場かぎりで聞き流すばかりか、口返答をして反抗的な態度に出ることもしばしばあつたし、同中学校を挙げての指導体制にも乗ろうとはしなかつた。そして少年につき昭和四七年二月二九日同中学校長より、福岡県中央児童相談所に対し、少年は学校指導の限界を超えるものとして通告がなされた。

(2) また少年の家庭等についてみると、実父は韓国籍、実母は日本国籍で、両親共に、金属回収業に従事し、日常、仕事のため午前九時ころから午後六時ころまで家を明ける。実父は、事があれば、体罰を含めて厳しく注意を与えるが、平素は放任的であるし、実母は、実父の厳格な態度には批判的でありながら自ら少年を躾けようとはせず、やはり放任的である。実兄二名は、いずれも、かつて少年宅を溜り場としたグループの不良交友による非行歴があり、ことに次兄は、非行を累ね現に保護観察中である。そして、両親とも、少年に対し何らかの保護的措置が必要であることは感じ取つているようであるが、自身でこれを具体化するだけの知識も能力もなく、その時間的余裕も有しないし、その他居住環境や経済状態の劣悪からすると現在の家庭は、少年の非行化防止に資するところはなく、その非行を誘発、助長することさえも考えられる。

(3) さらに少年の性格特性、行動傾向等についてみると、少年は、知力は良段階(IQ一一二)であるが自我未熟で、正常な社会性、情緒性の発達が阻害され、自己中心的な欲求を中心に即行的附和雷同的行動に出る傾向が強く非行グループの中でのみ安定を得て、非行性を深めてきている。そしてこのような性格形成の要因としては両親の国籍の相違に対する劣等意識のほか、家庭環境の劣悪さと躾の欠如が考えられる。

(4) ところで、少年につき福岡県中央児童相談所に対し、昭和四六年六月一〇日博多警察署長から通告がなされて以来、その後も同警察署長その他の警察署長から通告が四回、上記中学校長からの通告が一回というように通告が相次いだ。一方、同児童相談所は、訓戒、児童福祉司指導などの措置をとつたが少年の非行はおさまらず、保護者に福岡県立福岡学園(教護院)入所の措置につき同意を求め、その同意は得た。ところが、同学園には少年の受け入れにつき困難な事情が存することが明らかとなつたため、ついで国立武蔵野学院(前同)入所の措置につき同意を求めたが、保護者は宮崎県西諸県郡高原町で食堂を経営する実母の実弟に少年の補導を委託するとの理由で、これに同意しなかつた(ちなみに実母の実弟は本件審判に在席し、少年のこれまでの行状を知つて、少年の補導を受託することに消極的な態度を示した。)。

(5) 上記の諸事情を総合してみると、少年についてはもはや家庭保護、学校指導を継続することは著しく困難であつて、在宅(非専門的)保護の限界を超えており、少年の非行性を除去し、その社会適応性を養成し、また義務教育を終了させるためには少年を教護院に入所させたうえで、そのための指導、訓練を施す必要がある。そしてまた上記のような、少年の規範無視の態度、学校集団生活からの逸脱行動、問題グループへの親和性などを考慮すると少年の施設内での集団処遇には非常な障害を伴うことが予測されるので、少年を強制力が行使できかつそのための設備のある国立武蔵野学院に入所させたうえ、少年に対し本日以降通算一八〇日を限度として、その行動の自由を制限するような強制措置がとれるための許可をするのを相当と認める。

4 法令の適用

少年法二四条一項二号、一八条二項

よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 江口寛志)

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